判決の効力と意味。

昨年、個人事業税の「請負業」について判決を頂き、課税取消になった件について。
様々な方から返金されたとする報告を頂いていますが、正直なところ不満は残ります。

神奈川県の解釈誤り

様々な方に神奈川県の県税事務所から仕事内容のお尋ねがきたと聞いていますが、私が聞いている範囲では「コース設定があるか否か」により請負業に該当するかどうかを判定しているとのこと。
事実、神奈川県議会議事録にはこのような記述があります。

税制企画課長
 控訴審判決では、個人事業税の課税対象となる請負業が民法上の請負契約による事業とした上で、請負契約と言うためには、関係すべき仕事の内容が明確である必要がある。例えば、カイロプラクティック事業であれば、客に対する施術をどの程度、どのように行うかが画一的に定まっている必要があるという解釈が示されました。その上で、相手方が行うカイロプラクティック事業は、顧客に対する施術の内容が相手方の裁量に委ねられており、相手方と顧客との間の契約の目的が仕事の完成と言える程度に内容が明確であるとは言えないことから請負契約に該当せず、事務の委託である準委任契約に基づくものと認定されました。そして、個人事業税の課税対象となる請負業には準委任契約に基づくものは含まれないことから、賦課決定処分は違法であり、取り消すべきと判断されたものです。

税制企画課長
 上告受理の申立てにおいて、カイロプラクティックのような事業は、請負と準委任を明確に区別できないにもかかわらず、控訴審判決では民法上の請負契約について完成すべき仕事の内容が明確である必要があると限定的に解釈している点に誤りがあること、また、個人事業税の課税対象となる請負業について、そもそも事業税は、あらゆる事業を課税対象とすることが基本方針とされている中、準委任契約に基づくものを含まず、請負契約に基づくものに限定すると解釈している点に誤りがあることを主張しました。その上で、控訴審判決の法律解釈を維持した場合には、同様の事業を行っていながら、課税されるものと課税されないものが生じ、課税の公平性を揺るがすことになるという主張もしました。

税務指導課長
 カイロプラクティック業については、カイロプラクティックだから、請負業と認定したわけではありません。そもそも70業種は、運送業、畜産業、医業など具体的に事業が決まっており、カイロプラクティックに当たる、つまり、国家資格がない方が行う施術業者は、該当する事業がありません。そのため、こうした業者に対しては、請負を判定するための通達があるので、そういった通達に当てはめて、請負業に該当するものは請負業に該当させていたというところです。

税務指導課長
 現時点では、今回の訴訟を受けて、カイロプラクティック業であっても、特に国家資格を持っているわけではなく、単純に15分3,000円とかいう事業もあります。そういった事業は、請負業で課税を維持しても問題ないと思いますが、今回の訴訟の相手方のように裁量制をもって、御自身の裁量を持って事業を行うような方について、個人事業税を課税することは、現時点では考えておりません。

総務政策常任委員会 令和3年10月1日

そもそもの話ですが、平成28年10月頃に管轄の県税事務所から連絡があり、カイロプラクティックはあはき、柔整の免許を持たない場合は一律で請負業だと説明されています。
仕事の中身について検討された様子はありません。
また、当時の県税事務所の事業税課長は「準委任契約」という単語すら知りませんでした。

判決文の一部より。

控訴人の事業は、顧客から症状につき話を聞いた上、各種検査を行い、それぞれの症状に合わせて施術を行うというものと認められるから、どのような施術を、どの程度、どのように行うかは、控訴人の経験、技能、専門的知識に基づく広範な裁量に委ねられていて、内容が画一的に定まっているものではなく、また、腰痛や肩こりなどの解消自体を約束するものでもない。
顧客が特定の施術を希望することがあったとしても、それが症状の改善に寄与せず、又は、禁忌にあたるなどの場合には希望の施術を行わないことが
認められる
。以上に照らすと、本件事業の対象である顧客との間の契約の目的が、労務の結果の完成と認められる程度に内容が明確であるとは認めがたい。
これに対し、被控訴人は、本件事業における顧客と控訴人との間のカイロプラクティックに関する契約においては、日本カイロプラクターズ協会等のカイロプラクティックの団体が推奨する、身体機能改善に資することが期待される標準的な方法で施術を顧客に実施し、これを完了するという、無形の結果(仕事)の完成を約束し、これに対し顧客は、報酬の支払いを約束するもので、これをもって請負であると主張する。しかしながら、顧客や控訴人の合理的意思を推測すれば、既に述べた通り控訴人の債務の内容は、何をすれば仕事が完成したといえるかが明確にされているとはいえず、例えば、顧客の症状の改善に資するのであれば、最新の知見に基づく新しい施術方法が許される場合もあるから、常に一定の決まった施術がされることを前提とする合意であるとは認めがたいので、上記の考え方は採用できない。

東京高裁 令和2年11月18日

例えばですが、30分コースの整体というものがあったとします。
禁忌に該当すると思わしき症状であれば身体のチェックと説明のみで施術しないでしょうし、施術するケースであってもどんな施術をするかは施術者の裁量に委ねられている。
時間は単なる目安に過ぎないわけで、コース設定があることを以て請負と解することは東京高裁判決に反するものと考えます。

そもそも、個人事業税が法定業種のみの限定列挙を用いている以上、「あらゆる事業を課税対象にするため」という建前と現実に差が出ることは当然のこと。
事実として、立法当時から課税対象外としている業種(農業など)もあるし、平成19年には助産師業が業界からの陳情により削除され課税対象外になっています。

「あらゆる事業を課税対象にする」ということは建前の問題であり、実務とは異なることが明らかです。

個人事業税「請負業」の歴史

神奈川県が最高裁に提出した上告受理申立の理由書では、地方税法で個人事業税が規定される以前まで遡り検討されていました。

最高裁は不受理にしたため反論の機会すらありませんでしたが、主張内容のほとんどが間違っており、仕方なく古い文献を探しました。

現在の個人事業税(地方税法)は、元々は国税の営業税。
営業税にあたるものは現在の個人事業税第1種事業になり、原始産業(第2種事業)と自由業(第3種事業)が新たに創設されて今の形になりました。

営業税時代の国税の資料を多数見ましたが、「請負業には自由職業を含まず」とあります。
自由職業とは準委任契約に基づく事業と見なせますが、請負業に準委任契約は最初から含んでいないのです。

さらにいうと、昭和56年にデザイン業とコンサルタント業が第3種事業に追加され課税対象業種となりました。
当時の資料を確認したところ、デザイン業もコンサルタント業も法改正以前は課税対象ではなく、新たに創設したことにより初めて課税対象になったとあります。

デザイン業は請負として解釈できますし、コンサルタント業は一般的には準委任とみなせます。
請負であっても個人事業税第1種事業「請負業」にはならない証拠ですし、準委任を含まない証拠でもあります。

神奈川県は完全に解釈を間違えているといわざるを得ません。

判決の効力

神奈川県議会議事録をみると、ほかにもカイロプラクティックを請負業として課税している2県には判決内容を伝えているようです。

他都道府県の課税状況は私の調査によるものですが、一審はこの調査内容を完全無視。
東京高裁はきちんと証拠として取り上げて頂きました。

本事例についてですが、一審はいわゆるトンデモ判決と考えており、私の主張内容と証拠のうち重要なものはほとんど無視した内容になっています。
税法専門の弁護士さんにも一審判決文を見て頂きましたが、「なんでこんな内容になるのか理解できない」との見解です。

その中で弁護士さんから「こういう主張をしてみたら?」のようなアドバイスを頂いたのですが、頂いたアドバイスは全て一審でしていました。
なぜか全部無視されたのが一審です。
「全部一審で主張してます」と弁護士さんにお伝えしたところ、びっくりされてました。
従って、控訴審においても私の主張内容は一審と変わりません。

判決の効力は本来私にしか発生しませんし、他県についてはどのように判断したのかはわかりません。
判決を受けての神奈川県の対応にも疑問がありますが、私はこれ以上争う権利がありません。

他県の方や他業種の方で、請負業の課税について争いたい方がいましたら、最高裁用に準備していた資料がどこで閲覧可能かなどは教えることができますが、本来、請負業には準委任契約を含まないばかりか、自由職業とみなすようなものは含まないと解釈すべきであり、コース設定がどうのこうのも関係ないことと考えます。

なお、判決文や資料については税理士団体に寄贈しています。

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