個人事業税「請負業」の正しい定義と解釈。

個人事業税の中で、請負業は最も範囲が広く、最も曖昧な業種です。
この曖昧な請負業について、歴史から検討していきます。

第一種事業の歴史

個人事業税は地方税ですが、第一種事業(商工業など営業)については、元々は国税の営業税でした。
営業税時代の書籍を読むと、なかなか興味深い記述があります。

請負業には自由職業を含まず

昭和19年の東京国税局の資料であったり、様々な文献にこのような記述があります。
請負というのは幅広い概念ですが、営業税時代、対象となるのは主に商工業でした。
当時は自由業と呼ばれるものは営業税の対象外だったため、請負業にも自由職業を含まずと書いてあるわけです。

その後地方税に移管するのですが、営業税は個人事業税の第一種事業になりました。
自由業と呼ばれるものは、国税の特別所得税と呼ばれた期間が数年あり、その後個人事業税の第三種事業として新たに創設されました。

個人事業税になってから、昭和27年、地方財政委員会は興味深い通達を出しています。

税理士の顧問料、調教師、人工授精師業の課税について
(昭和27年7月23日 地方財政委員会875号)

1,事業税の第一種事業として列挙されたものは、商工業等のいわゆる営業の種類に属するものであって、請負業も右に準じ限定的に解することが妥当であるから、犬の調教師に対してこれを請負業として課税することは適当でない。また諸芸師匠業として課税することにも疑があるから政令で列挙すべきであり政令で列挙しなければ課税することは困難であると解する。

2,事業税、特別所得税における現行地方税法の課税客体に関する規定は原則として法定列挙主義に則り賦課徴収しているものであって事例の場合人工授精師に対しては法定業種に規定していないので課税することはできない。

営業税時代は自由職業を含まずとあり、昭和27年、地方税に移管してからも第一種事業は限定的に解釈するものだとしている。
この流れがあるため、個人事業税の請負業というのは、自由業とみなすものを含んでいないことになります。

請負と準委任

請負契約は民法632条に規定されていますが、仕事の完成という「結果」に対して顧客が報酬を支払う契約。
似たような契約に準委任契約がありますが(民法656条)、こちらは仕事の遂行に対して報酬を支払う契約で、結果までは求められていないもの。

請負で最も分かりやすいのは、大工さん。
大工さんは顧客からの依頼によって家を建てますが、家が完成して初めて報酬を請求できます。
途中まで建てたけど完成しなかった場合には、報酬を請求できません。

準委任は、医師の診察が当たります。
医師は顧客からの依頼に応じて、一定の診察業務を行いますが、症状を完治させることまでは求められていません。
完治や改善などの結果が無くても、診察業務を遂行すれば報酬を請求できます。

個人事業税のバイブル的存在、旧自治省が著した「事業税逐条解説」によると、請負業とは民法632条に基づき、仕事を完成させて報酬を得る事業だと定義されています。
形式上では請負契約でも、実質的に雇用に近いものについては請負業ではないともしています。

この例としてはプロ野球選手が該当します。
プロ野球選手は、契約上は個人事業主ですが、球団からの指示で仕事をするという点で独立性がなく、雇用に近いもの。
このような場合は、請負契約であっても事業税は課税対象外となります。

準委任契約を含むのか?

法人税法施行令の請負業は、条文に「事務の委託を受ける業を含む」とあるため、準委任契約も含まれます。
個人事業税の請負業(地方税法72条の2第8項14号)にはこのような但し書きが無いため、準委任契約を含まず請負契約のみとなります。

いくつか歴史を見ていくと、根拠があります。

昭和56年、地方税法改正で新たにコンサルタント業とデザイン業が第3種事業に追加されました。
追加される前は、この2つは課税対象外でした。

コンサルタント業は一般的に準委任契約に基づく業種。
これが昭和56年以前には課税対象外だったため、請負業には準委任契約を含まないことが明らか。

デザイン業は請負契約としても成立しますが、これも昭和56年以前は課税対象外でした。
この理由は恐らく、自由業と捉えていたからではないかと思われます。

平成19年に、第3種事業から助産師業が削除されました。
助産師業も準委任契約ですが、もし請負業の中に準委任契約を含むのであれば、削除されたのに請負業として課税しなければならなくなる。

もちろんそのような扱いはされていないので、やはり請負業には準委任契約や自由業を含まないものと歴史が証明しているわけです。

本来の請負業

このような歴史と定義なので、本来の請負業というのは、実はそれほど範囲が広いわけではありません。
最低でも以下の条件が必要になってきます。

①請負契約であること
②自由業ではないこと
③独立性があること
④ほかに列挙された業種ではないこと

個人事業税の請負業について争った訴訟では、東京高裁は以下のように判示しています。

請負による仕事の完成は、必ずしも有形のものに限らず、無形のものとすることもあり得るが、完成すべき仕事(労務の結果)の内容が明確である必要があると解される。

東京高裁 令和2年11月18日

なにがどのようになって完成なのかが明らかな業種でないと、請負業とはなりません。
準委任契約とみなされます。

例えばシステムエンジニアであっても、ソフトウェアの開発については、完成して顧客に納品して初めて報酬を請求できる。
完成が明らかなので請負とみなされます。
ただし、自由業と捉えることも出来るため、ここは難しい問題です。

システムエンジニアでも、システムの保守管理を委託されている場合、2つの観点から請負業とはなりません。
①保守管理という仕事の遂行のみで、完成を約束する業種とは言えないことから、準委任契約とみなすから。
②依頼元に常駐するような場合、独立性という点で疑問が残るから。

依頼元から勤務時間の指定などを受けているようであれば、実質的には雇用に近い状態となり、個人事業税では請負業とはなりません。

実は広いようで、そこまで広い概念でもない。
それが個人事業税の請負業本来の姿ですが、多くの自治体では違法に拡大して課税している実態があります。

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